連日暑く、毎日のように太陽の日差しが照り付ける。その眩しく光り輝く太陽は今日も元気なご様子だった。
そして自分はと言うともちろん元気・・・・・な訳があるはずもなく、バテている。
地球の気候は自動機械制御がされており、こんなにも暑くはならない。地球生まれの人間には少々きついものがあった。
・・・もちろん火星生まれでもそうだろうが。
汗ばんでいる肌を時々何処からともなくやってくる風が撫でていく。それがとても心地よかった。
窓からは青空を飲み込んでしまうかのような大きな入道雲がその姿を主張していて、その入道雲がゆっくりと流れていく様子をただ何をするわけでもなくぼーっと眺めていた。
「ちゃん、お手紙がきてるわよ」
庭の方からひょっこりと母さんが顔を出す。片腕には洗濯物がかけられているのをみるとどうやら洗濯中だったようだ。
この暑い中ご苦労様ですと思うと同時に何でこんな元気かなとも思う。これが主婦の力だろうか?
「手紙って?」
そういうと母さんは持ったいた手紙とやらをひらひらとさせた。
メールが主流なご時世にわざわざ手紙とは、ずいぶんとまた古風である。
それにしてもだ、自分に手紙をわざわざ送ってくる人物にまったくと言って覚えが無い。いったい誰だろうかと思いつつ、母さんからそれを受け取った。
それは封筒に入っている訳でもなく、むき出しの厚紙を二つに折り曲げてあるという代物だった。これは果たして手紙と呼べるのだろうか?そんな疑問を抱きつつ差出人の名前を確認する。
「・・・・・・」
書いてない。差出人の住所も名前も書いてない。あるのは宛名だけだ。
ものすごく怪しいこれはいったいなんなんだろうか。あらてのセールスか、はたまた嫌がらせか。気分がめいってしまった。
「ね、誰からだったの?なんて?」
洗濯物を干し終わったのだろう、母さんは興味津々な様子で聞いてくる。
「さぁ・・・、誰からだろうね?足長おじさんじゃない?」
「あら、素敵じゃない。それでなんて?」
読む気がなくなってしまった手紙らしきものを持ちながら適当に返したはずが逆に食いつかせてしまったらしい。
というか素敵という言葉が聞こえたような気がするんですけど。
「いやいや、全然素敵じゃないでしょ。むしろ怪しさ全開です。誰から来たのかわかんないんだよ?」
「謎めいてて良いじゃない」
「・・・よくさ悪徳セールスとかに騙されなかったね。というか、よく今まで生きてこれたね」
「ちょっと、母さんの事ばかにしてるの?」
「いえいえ逆に感心していた所ですよ」
ほんと感心しちゃう。だれ?こんな箱入り娘みたいに育てたやつとか思ったりしていませんよ。
母さんは不満そうにこちらを見ていた。
「で、内容は?」
「読んでない」
「もう何で読んでないの」
「何で怒られてるの?」
「母さんが読むから貸して」
そういうと手の中からそれを奪い取っていった。
「えーっと、
“親愛なる さま、いかがお過ごしでしょうか。連日続く暑さに少々参っているのではないかと思われます。
さてこの度はさまにネバーランドへの招待状を送らせて頂きました。
日ごろの疲れを癒していただくとともに、この火星の魅惑をより良く知っていただきたいと思っております。
なので是非とも起こし下さい。心からお待ちしております”だって」
「だってと言われても」
「行ってくれば良いじゃない」
「絶対あぶないって!?」
「大丈夫よ。人生ってそんなものよ?少しくらい危険でも行くのが男の子よ!」
「・・・・・すいません、女の子です」
「そうね」
サラッとすごい事いって、サラッと流してくれる。ちょっとだけ泣きそうになった。
「あら明後日じゃない。持ち物は水着だって」
「いや、行くって言ってないし」
「ちゃん水着持ってないものね、早速買いに行かなくちゃ!」
「一応一人娘なんだからもう少し大事にした方が良いと思うんだけど」
「母さん出かける用意してくるから少し待っててね?」
「・・・・・・はい」
どんどんと一人で話を進めていく。こちらの話を一向に聞く気が無いようだ、というより完全に無視されてますな。もう何も言うまいて。
頑張れ自分。
自分を励ましていると意気揚々と戻ってきた母さんに連れられ、街へと繰り出すのだった。
「ちゃんこれなんてどう?」
「却下」
こんな会話を何度となく繰り返している。母さんはあからさまに着なさそうな物ばかりもってくるのだ。両脇を紐で結ぶビキニとか、フリフリのついた桃色の水着とか、そんなお姉さん系や可愛い子達が着るのは絶対に無理です。
「ええ〜。ちゃんさっきからそればりじゃない」
「だからビキニとかフリフリのとか着ないって言ってるじゃん」
「良いじゃない着れば。これ可愛いのに。母さんの一押しよ?」
「一押しって・・・・。母さんあのね、それ自体は可愛いんだけどさ人には似合うもと似合わないものがあるんだよ」
「似合うわよ」
「どっからくんのその自身・・・・」
「母さんと父さんの子だもの」
「このバカップルめ!!」
なんだか頭が痛くなってきてきてしまった。こんなところで熱々の夫婦愛を聞かされる羽目になるとは。
このままいつまで続くのだろう、そう思っていると丁度よさそうなのが目に入った。
上下別になっていって、下はハーフパンツ上はTシャツみたいになっているスポーティなやつだ。下は黒上は青色に白色のロゴが入っている。
「母さんあれがいい」
「ん?どれどれ?」
「あそこの「却下」
見るやいなやすぐに却下されてしまった。
本人があれが良いというのにどんな親だ。
「かわいくない」
「基準そこなの!?いいよ可愛くなくて!」
「駄目」
「母さん」
「だーめ」
こうなると母さんは引かない。こんなことじゃ母さんが選んだものになってしまう。早いとこ断念して見つけなくては・・・・。
といってもなぁ、ワンピースしかないか。シンプルイズザベストをモットーに次から次へとみていくとあるものが目に止まる。それは、白地で青、赤、オレンジ色のストライプが入っているものだ。灯里たちが所属する会社のイメージカラーと同じで、迷わずそれを手にした。
「あーあ、あのフリフリが付いたやつが良かったのに」
ようやく買い物が終わったと思えばこれだ。どうしても自分の選んだやつを着せたかったらしく、母さんは店を出てからそればかり言っていた。
粘ったおかげで買ったのは自分で選んだものになり一安心といった所だ。
それよりいったいこの人は何処に行こうとしているのだろう。迷わず歩いているから目的地はあるのだろうけど、いい加減教えて欲しい。
「それよりさ何処にいくの?」
「ん?もちろん灯里ちゃんの所よ」
「・・・はい?」
「膳は急げって言うでしょ?それに母さんも灯里ちゃんに会いたいもの」
なんて言ってるんるんとご機嫌に歩いていく。これはもうどうやらネバーランドに行かねばならないらしい。
はぁと溜息をついて、母さんのあとについていくしかなかった。
「と言うわけなのだけど頼めるかしら灯里ちゃん」
大手を振って付いた先はアリアカンパニー。そして早速母さんは灯里に頼み込んでいた。行動力があると言うのか考えないで行動しすぎなのか良くわからない。
灯里もそしてアリシアさんも面食らっているというのにどんどん話を進めていく始末だ。
「母さん二人とも困ってるから落ち着いてくんない」
「え、そうなの?ごめんなさいね」
「あ、いえ。そんなことはないです」
「いいよ灯里、気を使わなくて。母さんはっきり言わないとわかんないんだからさ」
頼むから友達の前でくらい落ち着いて欲しい。またもや溜息がでてしまった。
「それでお母様は灯里ちゃんにさんをネバーランドにつれってって欲しいと」
「ええ、お願いできるかしら」
「灯里ちゃんどう?」
「はい、もちろん喜んで」
「え?灯里いいの?」
灯里は笑顔で頷く。まさかこんなとんとん拍子で決まるとは思わなかった。
本当は行く気なんてなかったけど灯里の船に乗せてもらえるのなら行っても良いかな。
明後日の9時にアリアカンパニーにという約束をして俺たちは帰っていった。わざわざ灯里たちは外までお見送りをしてくれてなんだか気
恥ずかしかった。それと母さんにいいお友達ができたわねと言われさらに拍車がかかり、顔が赤いわよと笑われた。
「忘れ物は?」
「ない」
「そう。それじゃあ灯里ちゃん、ちゃんの事よろしくお願いね」
「はい、お任せください。それでは行ってきますね」
「気おつけていってらっしゃーーい!!」
そう言うと灯里は足場を蹴って船を遠ざけるとオールを漕ぎ出した。ギギっと木と木が擦れるような音をさせながら船はゆっくりと水を掻き分けて進みだす。ぶんぶんと腕を振り見送る母さんの姿が少しずつ遠ざかっていった。
「なーんでわざわざ見送りにくるかね」
今では人がいるとしか判断が付かないくらいに遠ざかっている。それでも母さんはまだ見送りをしていた。
「の事心配なんじゃないのかな?」
「いや違うと思うよ。あれはきっと隙あらば乗ろうとしてたね」
「そうなの?」
「うん。昨日私も行きたいって大騒ぎしてたもん」
「あ、あははは」
ほんと大変だったよ。なんとか兄貴達とおさめたけどね。呆れるよまったく。
はぁと空を見上げるとこれまたいいお天気で最高の行楽日和というやつだった。
「今日もまたいいお天気だことで」
「そうだね。昨日は雨が降ったから心配したけど、晴れてよかったね」
嬉しそうにあかりがにこにこ笑うもんだから本当に晴れてよかったと思うのは不思議だ。これぞ灯里マジックってやつだろうか。
身体に当たる風がとても気持ちよく、頭上にはウミネコ達が飛んでいてミャアミャアと鳴いていた。
「船って気持ちがいいね。のんびりできてさ、なんか癖になりそう」
「うん、私もそう思う。なんでだか時がゆっくりと流れる気がする」
「だね〜」
海の中に手をつけてみるとひんやりとしていて気持ちが良い。手の通った後にはすうっと水面に線が残っていた。
なんだか気持ちが良くて眠くなってきてしまった。ふわっと眠気が襲ってきたと思ったと同時に灯里に呼ばれて、俺は現実世界へと意識を取り戻した。
「どしたの?」
「もうすぐ着くよ」
ネバーランドと呼ばれる島にもうすぐ着くらしい。灯里の視線の先を見てみると確かにそこには孤島が存在していた。
はじめは乗り気ではなかったが今はワクワクとしている。カエルの子はカエル、しっかりと母さんの遺伝子をついでいるらしい。その孤島はどんどん好奇心を掻きたてていった。
杭にしっかりと船をくくりつけ、しっかりと確認をするとその場を後にした。
なんでも、灯里もそのネバーランドへの招待状をもらっていたらしい。頼みに行ったときに言って欲しかったといったらすまなそうに謝っていた。でもこれで思い切り楽しめそうだ。正直知らない人間と楽しむほどの度胸は持ち合わせていない。意外と小心者なのだ。
歩く道は小さなジャングルのようで、まるでプチ探検をしているようで面白い。まあもし迷ったとしてもそんなに大きくはないので海沿いに歩いていれば船の元へ戻れるから安心だ。なんせ前科者だからそこはしっかりしないとね。
ジャングルとは言ってもうっそうとしている訳ではなく、程好く木々が立っていてその間から眩しい日差しが差し込んでいた。
「えー、なになに右から二番目の光り輝く浜辺だってーってわからん!アバウトすぎ!」
招待状に親切に地図が描かれていたが、それはかなーり大まかのもので残念だが俺には理解できるものではなかった。まあ、要するにまっすぐ歩いてれば着くんじゃない?と早くも迷子要素が出てきてしまったりする。ま、なんとかなるでしょう。
「取りあえずこのままあるこっか」
「うん、そうだね」
「ん〜、ネオ・ヴェネツィアとはまた違って気持ちいいね」
「自然いっぱうわぁ!!」
小さな悲鳴と共に隣を歩いていた灯里の姿が視界から消えた。驚いて消えたほうを見ると、木の根につまずいて地面に膝と手をついている灯里の姿があった。気まずそうに顔を上げると恥ずかしそうにえへへへと笑っていた。
「灯里大丈夫!?」
「うん、平気」
「いきなり消えたからビックリしたよ」
「心配かけてごめんね」
灯里に手を貸して立ち上がらせて裾をはたく。少し失礼だが裾を膝までめくって擦りむいてないか見ると灯里がきゃっと悲鳴を上げた。微妙に傷ついたが灯里が怪我をしていなかったのでよしとしよう。灯里を見ると顔を真っ赤にしていた。
「どしたの、なんか顔赤いけど」
「な、なんでもない」
「そう?まあなんでもないならいいけどさ」
あまりなんでもなさそうにみえない。けれどまあ、本人が言ってるんだから大丈夫だろう。
またこけると心配だから手をつないで行こうと手を差し出すと灯里はへっと素っ頓狂な声を上げた。ほんとに大丈夫だろうかと心配になる。なかなか手をとらない灯里に痺れを切らして俺は勝手に手をつかみ取って歩き出した。
灯里を見ると先ほどより赤みが増し耳まで赤くなっている。やっぱり熱でもあるんじゃあ・・・・
「灯里もしかして具合悪い?」
「え?ううん・・・平気だよ」
「だって顔真っ赤だよ?」
「ほんとになんでもないから。気にしないで」
「・・・・わかった。でも辛くなったら言いなよ」
こくんと頷くと灯里はだまってしまった。暫くどちらとも話すことなく黙々と歩く。聞こえてくるのは風に揺られる葉の音と、鳥が囀る声だけだ。
なんだかきまずいなぁと思っていたら聞いた事のない音が耳を掠めていった。
「この音何の音かな?」
「・・・・・。あ、これ潮騒の音だ」
「ってことはもうすぐって事?」
「うん」
「そっか。よし、ちょっとスピードあげるよ」
走りはしないが早歩きでその音がするほうへと急ぐ。進むにつれてその音はだんだんと近づくのがわかった。はやる気持ちを抑える。切り立ったがけが見えてきてその間からちらちらと青いものが見えた。
いつの間にか走っていたらしく、息を切らせてたどり着いた所は一面白い砂浜と青い空、そしてエメラルドグリーンに輝く海が一望できる場所だった。
あまりの景色の美しさに息を呑んでしまう。こんな場所があるなんて、ネバーランドというその言葉が本当に当てはまる所だった。
「どうだ、気に入ったか」
食い入るように景色を見ていたらふいに声がかかった。振り返ってみるとなんと、晃さんにアテナさんに藍華、アリスにアリシアさんそしてアリア社長たち全員がそろっていた。
皆もう水着に着替えている。白地にそしてそれぞれの会社のイメージカラーが入っていた。良く似合っていて同姓から見てもなんだかどきどきとしてしまった。
「すっごいきにいりました・・・って皆さんなぜここに?招待状もらったんですか?」
そう訳がわからない。頭にはハテナマークが飛び交っている。
それを知ってか晃さんはぷっと笑った。
「その招待状は私達が送ったんだよ」
「・・・・・・ぅえええーーー!!」
「灯里ちゃんもご苦労様」
「いえ」
「は?灯里もグルだったってこと!?」
「う、うん。皆で驚かそうってことになって、ごめんね」
「ま、そういうことだ」
なんだか力が抜けてしまう。確かにばっちり驚いたけどふつーに誘って欲しかったとも思う。
でも招待したくれた人物は謎の足長おじさんじゃなく灯里たちだから安心してくつろげていいや。
「それじゃあ早速だが二人とも着替えて来い。もうこっちは準備できてるから後はお前達だけだ。しっかり泳いで腹を減らせよ。
昼はバーべキューがまってるからな!」
晃さんはそういうと行けと手を振る。
バーベキューかぁ、すごく楽しみだなとうきうきしながら灯里について行こうとすると誰かに首根っこをつかまれた。
「なんですか晃さん?」
「なんですかじゃあないだろ。おまえなんで灯里ちゃんと同じ所で着替えようとしてるんだ。お前はあっちだあっち」
そういって指した先は灯里とは正反対の場所。なんでざわざあんな遠い所まで行かなきゃならないんだろうか。一緒にぱぱっと着替えちゃえばいいのに、そう思って眉をしかめた。すると同じように晃さんも眉をしかめる。
「なんだその顔は。まさか灯里ちゃんの着替えを見たいのか?」
「いえ、そういうつもりじゃあないんですけど・・・。なんというか面倒くさいと思って」
「面倒くさいっておまえなぁ、灯里ちゃんは女の子なんだぞ?」
「はぁ・・・?」
呆れたという感じで晃さんは言うが良くわからない。あれかな、いまどきの女の子というのはそういうものなのかな。同い年くらいだけど・・・。
なんだか良く分からないがこのままでは埒が明かない。取りあえず晃さんに言われた場所へと向かった。
「お、落ち着かない」
妙にそわそわする。普段着慣れていないのもあるが、水着というのは妙に気恥ずかしい。皆の所に行かないといけないとはわかっていてもなんだか尻込みをしてしまう。まったく情けない。そうやってうんうんと考えていると晃さんからお呼びがかかってしまった。声からすると少しお怒りらしい。
「おいまだ着替えてるのか!?」
「えっと、着替えは終わってるんですけど・・・」
「じゃあ早くしろ」
「なんか恥ずかしくて」
「はぁ?もういい、着替えてるならそっちいくぞ」
痺れを切らし晃さんは乗り込んできてしまった。俺の姿を確認すると突然固まって目を見開き、じっと見つめてくる。
すっごく恥ずかしいからやめて欲しい、逃げ出したくなる。なんだろうそんなに似合わないのか?
「お前・・・、そんな趣味があったのか?」
「はい?」
「まあ、人それぞれだしな」
「え?え?何の事ですか?」
「何の事って・・・・」
そういって指をさしてくる。水着か?というか水着しかきてないし。そういう趣味ってことはそんなにもセンスがないってことか。
「そんなに変ですかこれ」
「いや変とかそういうんじゃなくて・・・。それ女物だよな」
「そうですけどそれが・・・・・!!!」
いやいやいや、まさか・・・ね。そんなことはない・・・と思いたい。
もしやと思う反面まさかとも思う。ぐるぐるとそんな思いが駆け巡り、つつーっと冷たい汗が頬と背中をつたっていった。
「お前男だろ?」
ど真ん中ストレートにきた!!9:1の1くらいでまさかと思っていたけど残念なことにやっぱり0だった。
ちょっと泣きそう。空の青さがとても目に沁みるなぁ〜
「晃さん・・・俺女ですよ?」
俺がそういうとさっきよりも驚きを増した顔をする。何ならいっそうのこと脱いでやろうかと思ったけどやめた。やっぱり恥ずかしいし。
晃さんは視線を彷徨わせると頭をぽりぽりとかきながら気まずそうにしていた。
「その、すまん」
「いいですよ別に慣れてますから。いつも男物みたいな服着て帽子被ってましたから」
「俺ともいってたしな。それに・・・」
「それに?」
「・・・いやなんでもない」
「ちょっと!そこまで言ったら言ってくださいよ、気になるじゃないですか!」
「いいから行くぞ」
くるりと背中を向けて歩いて行ってしまう。何が何でも言わないらしい。そんなことされると気になるというのにあきらめるしかなさそうだ。
案の定皆の元にいくとすんごく驚かれた。それにしてもそろいもそろって誤解していたとは。その中で飛びぬけていたのはやっぱり灯里で、晃さんと同じようにそういう趣味があったんだねと言われて思わずずっこけそうになった。
それがさらに誤解だと言う事がわかると、灯里はなんどもごめんねと謝っていた。
ひと騒動あった後ようやく海に入った。
本物の海に入るのは初めての事で少し怖かったがそれよりも好奇心の方が勝っる。
地球にも海はあるのだがもう泳げない。だから一生海で泳ぐことはないだろうなんて思っていたのによもやこんな日が来るとは。
恐る恐る波際に立ってみると冷たい海の水が足先を包む。波が寄せては返すその度に、足の裏がもぞもぞっとするのだった。
「こ、こしょばゆい」
「どう?楽しいかしら?」
「あ、アリシアさん。もちろんすっごく楽しいです」
そう返すとアリシアさんは嬉しそうに微笑む。だから俺もにっと笑い返した。
「海って気持ちがいいんですね。それに火星の海は見てても楽しい」
「ふふ、そう言って貰えると嬉しいわね。招待してくれたアリア社長も喜ぶわ」
「え!?招待してくれたのってアリア社長なんですか!?」
「ええそうよ。ここを見つけたのもアリア社長なのよ」
アリシアさんの言葉に驚いてしまう。正体主がまさかアリア社長だったとは。さらにここを見つけたのもアリア社長だなんて・・・。恐るべし火星猫。
チラッとアリア社長をみると姫屋の社長であるヒメ社長に引掻かれ、そのあげくオレンジプラネットの社長まぁくんにお腹を噛まれていた。
・・・・後でお礼を言っておこう。
そうだ、やってみたいことを思い出した。早速俺はその場にしゃがみ込み手のひらに海水を汲んだ。アリシアさんはそんな俺の様子を不思議そうに見ている。かまわずそれを口に近づける。
「あっ!!まって!」
時遅く、アリシアさんの制止がかかったときにはもう海水は思いっきり口の中に入っていた。
「ぶはっ!けほけほけほ。うぇーー、しょっかいー」
「だ、大丈夫!?今お水持ってきてあげるから待ってて」
「あいーーー」
予想以上の辛さになみだ目になる。アリシアさんは急いでお水を取りに行ってくれた。ベーっと舌を出してお水を待っていると豪快な晃さんの笑い声がここまで聞こえてくるのだった。
ひとしきり遊んだ後お待ちかねのバーベキューがやってきたのだがこれまた中々白熱したものだった。お肉コールや誰の肉やらと熱い。ちょっと付いていけずお肉は後にしてシーフードや野菜を食べることにした。
「はいお肉だよ」
「ん?灯里か、ありがとう」
灯里が肉の乗った皿を持ってやってきた。皿の上の肉はいい感じに焼けていて、実においしそうだ。
「うん、おいしい」
「晃さんが焼いたやつだから」
なるほど、肉奉行晃さんが焼いたのか。それはおいしいはずだ。
晃さんの方をみるとさっきより肉争奪戦が盛り上がっていた。
「さっきはごめんね」
灯里のいきなりの謝罪に目を丸くしてしまう。いったい何の事だろうかと思ったが恐らくあの事だろう。
「男だって思ってたこと?」
「うん・・・」
「あはは、気にしなくていいのに。第一皆思ってたんだし、俺も紛らわしい格好してたからおあいこ」
そう言っても灯里は申し訳なさそうにしていた。そんな気にせんでもいいのに。そう思って頭を撫でると困ったような表情をして笑っていた。
「お肉食べてる〜?早く食べないと無くなっちゃうわよ?」
たらふく食べて満足したのだろうか、肉争奪戦に加わっていた藍華がこちらの方へやってきた。
「何、満足したの?こっちは野菜しかないよ?」
「知ってるわよ。さすがにお肉ばっかり食べているわけにわいかないでしょ」
「へ〜」
さんざんあんだけ食べていたくせに今更そんなこと言うのかと思っていると、それを感じ取ったのか藍華はムッとしてあによと睨みをきかせてきた。触らぬ神に祟りなし、ということで別にと流してお皿に乗っているお肉へと集中することにした。
「ほら晃様とくせいの特大焼きおにぎりができたぞ!藍華たちこっちにこい」
「わーひ、晃さんの焼きおにぎりだぁ〜」
「晃さんの焼きおにぎりは絶品なのよね。ほらぐずぐずしてないで行くわよ!」
相当嬉しいのだろう。二人はダッシュで焼きおにぎりへと走っていった。きずくともう置いていかれていて俺もその二人の後を急いで追いかけた。
「ほれ、うまいぞ」
「あつ!あっつ!」
自信満々に渡されたそれはもちろん焼きたてなわけで、持てる筈もなく右手へ左手へと宙を舞った。そうしているとようやく持てる熱さとなってくれた。一体どんな感じなのだろう、焼きおにぎりを食べるのもこれまた初めてだったりする。
カリっという歯ごたえとともに香ばしい醤油の香りが広がる。そして、もっちとしたお米が現れそれにもしっかりと味が付いていてとてもおいしかった。
「うわぁ・・・おいしい」
「あたりまえだ。なんせ晃様のお手製だからな」
口に端を上げて得意げに晃さんは笑う。
「そうですね。初めて食べましたけど晃さんのが初めてじゃあ他の焼きおにぎりを食べても物足りなくなっちゃいますね」
「お、おまえなぁ・・・」
お世辞抜きで本当においしい。これはまた作ってもらわないと。
素直に感想を述べると心なしか晃さんの頬が赤くなったようなきがした。
「あ、もしかして照れてます?」
「なっ、照れてない!いいからそれ食べたらささっと泳ぎに行け!」
ムキになって否定をする様子からするとどうやら図星らしい。今までが今までに思っていたイメージと違い意外と可愛い所もあるのだと可笑しくなってしまった。
極力ばれないよう抑えていたが無駄だったようで、すごい剣幕でにらみつけられる。
そこまで怒らなくてもいいのにと思ったが言えるはずもなく、急いで手に残っている焼きおにぎりを口に詰め込むとその場を後にして海へ逃げるのだった。
うーん。海はいいなぁ〜、泳げないけど。今俺は泳ぐと言うよりもがいていたりする。
「先輩溺れてるんですか?」
淡々とした声でアリスは痛い事をさらっと言ってくれた。おいおい、お姉さん傷ついちゃうよ?
「すいません。これでも一生懸命に泳いでいるんですけど」
悪気はないんだろうけど少しカチンときてしまった。だから自然と少し棘のある言い方をしてしまったらしく、アリスがしゅんとした様子からそれがみてとれた。
「すみません。そういうつもりで言ったわけではないんです」
「ごめん、言いかたが悪かった。本当のこと言われて少し頭にきちゃったんだ」
そう、アリスは悪くない。きっと心配して来てくれたのだろう。そりゃあねぇ、自分で自分の泳ぎを見ても大丈夫か?こいつ溺れて死なないだろうなって思うだろうなと考えたりしてたからさ。だから一応足付くとこでもがいてたんだけどね。
「地球はさ泳ぐ機会がないから」
「そうなんですか?」
「うん、だから泳げないんだよね」
言ってて恥ずかしくなってきた。アリスから視線をはずして頭をぽりぽりとかく。
「私が教えましょうか?」
アリスから思いもよらぬ言葉が返ってくる。思わず間抜けな声を出してしまった。
だって、アリスは俺の事をどこか警戒しているような感じだったから。まさかねぇ?こんな事を言われると思いもしない。
「もちろんろかったらですけど・・・・・」
「いやー、ぜひぜひお願いするよ!」
もちろん断るはずがない。泳ぎを覚えるいい機会だし、何といってもアリスとも仲良くなれるいい機会だ。
「わかりました。それじゃあまず、バタ足からで」
「了解。よろしくねアリスせんせ」
冗談ぽくそういうと何言ってんだこの人みたいな顔をされたからヤバイと思ったんだけど、はいっと言って笑ってくれたからほっとした。
少しは仲良くなれたと思ってもよさそうだね。
只今打ち上げられたイルカのように横たわってます、はい。
アリスの指導はなかなか厳しかった。まあ、そのおかげで溺れているようにしか見えなかった泳ぎが少しだけまともになったから良いか。
でももう泳げない。
海ってのはこんなにも疲れるものだと身を持って理解した。けれどその疲れは嫌な感じのものではなく、むしろ心地いい疲れだった。
「スイカ持ってきたわよ」
ぐったり横たわって海を見ていると、逆さまににゅっとアテナさんの顔が現れる。手元を見ると赤々とつやのあるスイカが握られていた。
思うように力の入らない身体をゆっくりと起こしてそれを受け取ると、アテナさんは俺の隣に座った。
「疲れた?」
「はい、正直いって。でもすっごく楽しかったです。また来たいですね」
アテナさんはそれを聞くと良かったと言って嬉しそうに微笑む。
早速受け取ったスイカを一口かじる。しゃくっと音を立てたそれは甘く、渇いていた身体を潤していった。夢中で食べていると隣からくすくすという笑い声が聞こえてくるのだった。
スイカを食べ終えひと段落すると、無性にあのアテナさんの歌が聞きたくなった。
「アテナさんお願いがあるんですけど」
「なに?」
「アテナさんの歌が聞きたいです。だめですか?」
だめだなんていう返事は返ってこないだろうと思いつつ一応確認をしてみる。きっとにっこりと笑って良いわよといってくれるはず。
「ええ、もちろん良いわよ」
思ったとおり。
アテナさんはにこっと笑うと海の方へ向いて姿勢を正す。そこにはいつものほえーっとした表情はなくきりりとしていた。
いつもと違う雰囲気とその凛とした表情に胸が高鳴った。
すうっとアテナさんは深呼吸をする。そしてあの澄みきった歌声が奏でられた。
あの時はわずかな時間で遠くからだったけれど、今はこんなにも近く俺たちだけに歌ってくれている。そう思うとなんだかくすぐったくて、色んな人に自慢してやりたいと思った。
アテナさんの歌は疲れきった身体を優しく、暖かく包み込んでくれる。身体の隅々まで染み渡っていく。
俺はいつの間にか俺は目を閉じていて、そして意識までも手放していた。
どこか遠くのほうで何かが聞こえたような気がする。人の声かな?何か判断が付かないというか今はどうでも良かった。
暖かくて、やわらかくて、気持ちよくて。なんだか良くわからないけれどこのままでいたいと思ったのは確かだ。
「・・・きろ。お・・・・げん・・・し・・」
最高の気分なのに誰かがそれを邪魔しようとしている。このままにしておいて欲しいのに耳に届く声は少しずつ大きさを増していった。
「いいかげん起きろって言っているだろうが!!」
驚きのあまりがばっと身を起こす。でもまだ目は閉じたままで、ようは条件反射で起きたようなものだった。
まどろむ意識の中うっすらと目を開けると、寝ぼけ眼にぼやけた人のような姿が映った。
「・・・ぁ・・きらさん?」
なんとなーくそんな気がしてその人の名前を読んでみる。出てきた声はかすれていた。
「そうだ」
「・・・ここ・・どこ?」
「おまえまだ寝ぼけてるのか。海に来ただろうが海に!」
ぼんやりとしている脳を一生懸命に働かせると少しずつここにいたる事を思い出してきた。
たしか海で遊んでたらふくお昼を食べて、泳ぎの練習をして、スイカ食べて、アテナさんの歌聞いて、それから・・・・それからどうしたんだっけ?
うんうんと頭をふらふらさせながら考え込んでいると急に左頬に痛みが走った。予期もしないその痛みに目にじんわりと涙が溜まる。
「い、いはいいはい!」
「少しは目が覚めただろう?」
どうやら晃さんに頬を抓られていたらしい。にやりと笑うとくるりと背を向けて行ってしまった。
晃さんが向かうその先には気持ちよさそうにすやすやと眠る灯里、藍華、アリスの姿。可愛そうに同じ事をされるんだろうきっと。
あ、そうか爆睡してたんだ。三人を見て判明する。きっとアテナさんの歌が気持ちよすぎたんだ。
そう分かるとまた睡魔が襲ってきて、どんどん瞼が重くなっていった。
せっかく抓ってもらった頬の痛みだけではこの眠気を吹き飛ばすことはできなかったらしい。
晃さんは丁度三人を起こしている最中でこちらには目もくれない。ちょうどいい、今のうちに寝てしまおう。
でもきっと怒られるんだろうなぁ・・・。きっとなんてもんじゃない絶対だな。
残念な事に寝ちゃ駄目よという天使は出てこず悪魔のみが囁いていた。
よし、寝よう。そう決断して後ろを向くとそこにはアリシアさんとアテナさんが可笑しそうにくすくすと笑っていた。
「いらっしゃい」
アリシアさんはそういうと自分の膝をぽんぽんと叩く。どうやら俺の考えている事をお見通しのようだ。
そこで思い出した。一体今まで何処に寝ていたのか。そうだ、そこだ。今までアリシアさんに膝枕をしてもらっていたんだ。
その事実が頭に飛び込んでくると一気に顔が熱くなる。すっごく恥ずかしいんですけど。
恥ずかしいけどでも嬉しくて、お言葉に甘えてもう一度膝枕をしてもらうことにした。
さっきは無意識だったけど今度は違う。妙に緊張してしまった。
するとすーっとアリシアさんの指が俺の髪を撫でる。視線を上げるとアリシアさんは微笑んでいた。
くすぐったいけど気持ちよくて目を細くすると、アテナさんが肩にタオルケットをかけてまた優しく歌を歌ってくれた。
さっきとは違う歌だ。なんていうんだろうなんて考えていたらうとうとしてきて、いつの間にかまた眠っていた。
「良く眠れたか?」
今目の前にいているのは晃さんのすごくいい笑顔。そのいい笑顔から殺気を感じるのは気のせいのはず。うん、気のせいなんだと思うけれどすんごく怖くて目があわせられない。
その様子を見ているだけの灯里も、藍華も、アリスも顔を青ざめながらびくびくしている。
ぽんと優しく肩に手が置かれる。ただそれだけ、そうただそれだけなのにぶるぶると身体が震えてしまった。
本能が警戒音を鳴らすが逃げられるはずもなく、米神からすうっと汗が流れ落ちた。背中も手のひらも冷や汗でぬれている。
「、ちょっとこっちむけ」
耳元でこの上なく優しく晃さんが呟く。それが逆に怖くて身体が固まってしまう。それになんとなく向いてしまったら終わりのような気がした。
「顔をこっちに向けろって言っているだろ?」
声色が少しだけ低くなる。どっち道終わりだったようだ。
こんなに怖いこと今までにあっただろうか。いやない、これが一番であろう。少しずつ目が潤んで鼻の奥がツーンと痛くなる。
そーっと晃さんの方に顔を向けると先ほどと同じ笑顔を顔に貼り付けていた。
「何か言う事はあるか?」
「・・・・ごめんなさい」
「何をだ?」
「に、二度寝してごめんなさい」
「他には?」
「も・・・うっく・・しません」
怖さのあまりに我慢していた涙がぽろぽろと出てしまっていた。まさか大きくなって誰かに怒られた泣くなどと思ってもみなかった。
恥ずかしいとか情けないだとかそう言うなんてものはなく、恐怖という二文字がすべてを埋め尽くしていた。
「晃ちゃんもうその位にして、私達も悪いのだし」
「アリシアまたそうやって甘やかして」
「晃ちゃん私からもお願い」
「アテナお前まで」
二人がほんと天使の様に見える。もちろん晃さんは大魔王。
その大魔王もさすがに天使のお二人に言われれば引き下がるしかない様子。しぶしぶといった様子で晃さんはお説教を終わりにしてくれた。
ほんと怖かった・・・・。
帰るころにはもう辺りはすっかり夕闇に染まっていた。
「ピッツァ!ピッツァ!」
なんでも晃さんがピッツァを奢ってくれるらしく、肉コールならぬピッツァコールが巻き起こっている。
優しいんだか怖いんだか晃さんて良く分からない人だ。
ご機嫌の三人娘と晃さんはさっさと歩いていく。それに遅れないように少し離れた所で歩いていると後ろからアリシアさんのうふふと笑う声が聞こえてきた。
「アリシアさんなんか楽しそうですね」
「ええ、そうね」
「何がそんなに楽しいんです?」
「ふふ、晃ちゃんがね・・・」
晃さんがなんだろう。アリシアさんはそこまで言うと微笑むだけで教えてくれない。朝もこんな事があったような気がする・・・
「なんですかアリシアさん教えてください」
「を泣かせてしまったお詫びにピッツァをご馳走してくれるんですって」
「え?そう・・・なんですか?そんなこと一言も・・・」
驚いた、まさか俺の為だったとは。目を丸くして先を歩いている晃さんをつい見てしまう。すると視線に気が付いたのかこっちを振り向いて何だ?といってきた。ふるふると首を振るとおかしなやつだなと言ってまた前を向いて歩き始めた。
「ふふ。晃ちゃんって気に入った子には意地悪しちゃうのよね」
「そうそう、きっと照れ隠しのつもりなのよね」
「きっとの事気に入っているのよ」
「うん、みててもわかるもの」
「・・・・」
幼馴染の前では晃さんも型無しだ。
どこぞの男子小学生みたいな晃さんについ噴出してしまった。すると二人も俺につられて笑い出す。三人でなるべく声を殺して笑った。
晃さんのそんな一面を教えてもらって少し・・・・いや、かなり嬉しくなってしまった。
二人にちょっと行ってきますと言って晃さんの所へ走る。そしてきゅっと手を握ってみた。
なんだって言って振り払うんだろうなと思っていたけど予想とは裏腹に、驚いた表情した後ふっと笑っていた。
大人の余裕というものがあるらしい。逆にこっちが恥ずかしくなってきて悔しいがそっぽを向いてしまった。
隣からくっくとのどを鳴らす笑い声がする。だから手を握る力を少しだけ強める。するとそれに答えるように晃さんも返してくれるのだった。
「あーーーー!!晃さんずるい!!」
「ずるいとはなんだ。だいたいの方から手を繋いできたんだぞ」
俺が晃さんと手を繋いでいるのを藍華たちが見つけるとなぜだか言い争いが始まった。さすがに先輩なだけあって晃さんは藍華のことを軽くあしらっている。
というかずるいってなんだ?藍華も手を繋ぎたいのだろうか。
「藍華」
「あによ」
「はい」
「・・・・・・」
空いているほうの手を差し出すと藍華は固まってしまった。散々ずるいとか言っていたのに手を繋ごうとしない。
女の子は良く分からない。・・・自分も女だけど。
何かを考えているのか藍華は手を出したり引っ込めたりしている。
すると差し出した手を誰かが握った。驚いてみるとなんとアリスだった。
「んな!!後輩ちゃんなにしてんのよ!」
「藍華先輩べつにいいみたいなので私が」
「誰もいいなんていってないでしょうが!」
「あわわわ。ふ、二人とも落ち着いて〜」
今度は藍華とアリスの間で火花が飛び散る。いったいなんなんだ。わからず首を傾げてしまう。
二人の間で灯里が可哀相なくらいおろおろしていた。
「あらあら」
「晃ちゃんに良い所もって行かれちゃったね」
「そうね・・・。でも私達もそのうち、ね」
「そうだね」
まさかアリシアとアテナの間でこんな会話を繰り広げられていようとは、もそして藍華たちも知る由はなかった。
