夕方、学校から帰ってきたばかりの私に母さんが買い物に行ってきて欲しいと頼んでくる。どうやら夕食で使う材料をうっかり買い忘れしまったらしい。
それを買いに行ったはずなのになぜ忘れてしまったのか。それは他に安いものがあってそちらに気をとられてしまったからなのだと母さんは苦笑いをしていた。
まぁ、分からなくもないけれどね。たまに私もやるし。あれ? これってもしかして遺伝だったりするのかも?
そんな馬鹿なことを考えながら近くにある商店街へ向けて歩き始めた。
夕食の時間が近いとあって人通りが多い。これから作る人、会社帰りに買っていく人、ただの通行人だの色んな人が行きかう。
なんとも賑わしい。こういう光景を見たりするのは結構好きだったりする。あちこちからすきっ腹を誘惑するいい匂いも漂ってきた。
誘惑に何度か負けそうになりながらもなんとか頼まれた物を買い、家に戻ろうと来た道を引き返そうとした時だった。
顔見知りの店のおばさんに呼び止められ、私は歩みを止める。
「せっかくだからこれ、書いていきな」
「なんですかこれ?」
「もうすぐこれの時期だろう?」
そう言いながら商店街のある場所を指差す。そこには大きな笹が飾られていた。
ああ、と私はその言葉に納得する。そういえばこの時期になると何箇所かに笹が飾りだされていたっけ。しばらくこんな行事に参加してなかったからすっかり忘れていた。
「何かお願い事を書いて飾っていきな」
「お願い事……」
そう呟いて私はさっき手渡された淡いピンク色の紙を見つめた。無いわけじゃない。けれど、叶うはずもないとどこかでそう思う自分もいる。紙に書いて笹に飾るだけでなんて。
そんな様子を見ていた店のおばさんは笑いながら言った。
「叶うかどうかはさておいてさ、とにかく書いてみたらいいんじゃないかい?」
「そう、ですね」
「そんなに難しく考えなくてもさ。こういうのはぱっと思いついた直感的なものがいいんだよ」
叶えてもらおうだなんてものすごく他力本願だけどいいのかな、と私は考える。そもそも織姫と彦星に叶えてもらうんだろうか? 織姫と彦星が会えるのを祝う日だとばかり思っていたんだけれども。それともその喜び分けてもらおうと、そういう感じなのかなぁ? でもそれでなんで願い事が叶うんだろう?
「叶えてもらおうって思うんじゃなくてさ、叶えるって気持ちが大事なんじゃないかい?」
「叶える?」
「そうそう。要は紙に書くのは目標、決意みたいなもんだと私は思ってるよ」
なるほどと、私は感嘆する。今の私の心にその言葉はとてもしっくりするものだった。
願いと言うか私の想い、か。それならと私はある言葉を書いた。今の自分では勇気が無くてまだ出来ないこと。