「ありゃ、珍しい」


聖は部屋に入るなりそう呟いた。

そこにはいつものメンバーがいつもの席に座っている。自分を含めず、たった一人を除いては。


『ごきげんよう』


聖の姿を見て、後輩達は挨拶をする。

聖の妹である志摩子は椅子から立ち上がると、いつものようにコーヒーを入れに流し台の方へと向かった。

聖はごきげんようと返すと江利子の隣の席へ座り、ひとつ空いている席へちらりと視線を向けた。


「蓉子は?」

「さあ?何も聞いてないけれど」


さもつまらなさそうに江利子は言う。珍しい出来事だが江利子の“面白い”の対象には入っていなかった。

志摩子がコーヒーの入ったカップを聖の前に置く。聖はありがとうと言い早速それを口につけた。


「祥子とかも何も聞いてないの?」

「特には聞いておりません」

「そう」


しっかりものの蓉子が連絡なしに帰るという事はよほどの事が無い限りない。ましてやさぼるなどとはもっと考えられない。


「さぼりだったら面白いのに・・・」


江利子はそうぼやいた。


「それはありえない話だね」

「分かってるわよ」


2人がそう話しているとギシ、ギシと階段がきしむ音が聞こえる。

噂をすればなんとやら。

その音で誰かが来たのだとわかった。

さらに、この薔薇の館に来る一般生徒はめったにいないという事を踏まえると、思い当たる人物は1人しかいない。


「お、きたきた。ほら祥子、お待ちかねのお姉さまがいらっしゃったわよ」

「なっ!白薔薇様!!」


聖は祥子をからかい、可笑しそうに笑う。一方祥子は物凄い剣幕で聖を睨み付けていた。

しかし、姿を現すであろう蓉子が入ってくるのを皆待っているが、一向に入って来る様子が無い。

皆、首をかしげていると扉をノックする音が聞こえた。


「えっ?何でいちいちノックするの?」

「知らないわよ。両手が塞がってるんじゃないの?」

「あ、じゃあ私が出ます」


いつもではありえない行動に聖と江利子は顔を見合わせる。

江利子の台詞に、祐巳は急いで立ち上がると扉を急いで開けた。


「紅薔薇さま大丈夫ですか?・・・ってあれ?」


祐巳は扉の向こう側にいる人物を見て目を瞬かせる。

聖たちはそんな祐巳の後姿を見てまたも首をかしげた。


「祐巳ちゃんどうしたの?」

「え?あの・・・」


聖は聞くが、祐巳はどうしたらいいのか分からず、困惑した表情を浮かべている。

扉の向こう側にいた人物は聖の声を聞くと確信したように部屋へと入った。


「やっほ〜。聖ちゃんに江利ちゃん。良かったここであってたんだ」


蓉子だとばかり思っていた聖たちは登場した人物に驚く。

そこから出てきたのは祐巳よりも小さい少女だった。


「「!!」」


祥子たちはこの人物は誰なのかと、聖と江利子はなぜここにいるのかと驚く。


「ちょっと用事があってきちゃった」


何事も無かったように、と呼ばれた少女はからからと笑った。


「来ちゃったって・・・」

「駄目だった?」

「あら、そんな事無いわよ。いつでも大歓迎」

「うんうん私も。だけど1人できたら危ないというか、心配というか」

「やだな聖ちゃん。お姉ちゃんじゃないんだから」


はそう言いながらも嬉しそうにしていた。


「あの〜・・・」


3人でよろしくやっている所に令が声をかける。

聖たちがそちらに顔を向けると令だけではなく、祥子たちも困惑した表情で見ていた。


「白薔薇さま、黄薔薇さまその子は?」

「あ、そっか祥子たちは知らないんだよね」


忘れていたというように聖は言う。

それに気が付いたは祥子たちに向き合うとにっこりと笑った。


「初めまして。水野といいます。姉がいつもお世話になっています」

『紅薔薇さま(お姉さま)の妹(さん)!!?』


祥子たちは蓉子の実妹のを凝視する。

似ていると言えば似ている、似ていないと言えば似ていない。

なんと言っていいのやら、とにかく蓉子に妹がいたことに驚愕する祥子たちだった。


「お姉さまに妹がいるなんて知りませんでした」

「あ〜、蓉子あまりに関しては言わないから」

「私たちが知ったのも無理やり蓉子の家に行ったときだものね」


少し肩を落としている祥子を聖はフォローする。その傍らで江利子は昔を楽しそうに思い出していた。

は聖と江利子の間に席を取ると、興味津々で祥子たちを観察し始めた。


「あなたが祥子さんですか?」

「え?そ、そうよ」


遠慮なく、かしこまった態度をしないのような人物に、少なくとも会ったことの無かった祥子は戸惑う。

その様子を聖と江利子は面白そうに、にやにやと眺めていた。


「お姉ちゃんの妹なんですよね?」

「え、ええ」

「じゃあ私のもう1人のお姉ちゃんだ!」


は嬉しそうににこにこしている。祥子はどう返したらよいのか困っていた。

それを見ていた聖は豪快に笑い出し、の頭を撫で始める。


はほんと面白いなぁ。そうそう、祥子はもう1人のお姉ちゃんだよ」

「ろ、白薔薇様!」

「いいじゃない減るもんじゃないんだから」

「そういう問題じゃあ・・・」

「・・・駄目ですか?」

「うっ!」


は上目ずかいに祥子を見上げた。そんな目で見られたらさすがの祥子も何も言えなくなってしまう。


「・・・もちろんいいわよ」

「わーい!!」


両手を挙げて、身体全体で喜びを表現する。そんなを見て、祥子たちはなんて可愛いのだろうかと思い始めていた。


「か、かわっ!!お持ち帰りしたい」

「同感ね」

「ん?お持ち帰りって何?」

「ううん、なんでもないよ」

「え〜、気になるよ・・・そうだ!帰ったらお姉ちゃんに聞こう」

「そ、それだけは勘弁!!」


意味が分かっていないは無邪気に言うが、意味の分かっている聖はその後のことを想像して冷や汗をかく。そんな事を聞かれたら命が助かるのかどうか分からない。いや、恐らく助かる事は無いだろうと聖は思った。


、もう1人お姉ちゃんがいるわよ」


話を逸らそうと江利子は別の話題をふる。

単純・・・いや、純粋なはもう1人姉がいる事を知り、今の聖とのやり取りを忘れ江利子の話に食いつくのだった。


「え!?だれだれ?」

「あのツインテールのおさげをしている子よ」

「へっ!?わ、私ですか?」


いきなり話を振られた祐巳はいつもの百面相を開始する。

はというとまたも嬉しそうに目をきらきらと輝かせていた。


「祥子の妹の祐巳ちゃんよ」

「よろしく祐巳お姉ちゃん!」

「え?あ、よ、よろしく」

「ふふ。祐巳お姉ちゃんは可愛いね。わんこみたい」

「わ、わんこ・・・」


のわんこ発言に祐巳はうなだれた。

顔だけではなく態度にまで出ているという事はかなりショックだったのだろう。

それを見た聖は慌てて祐巳に言った。


「祐巳ちゃん違うんだよ、にとってわんこは褒め言葉なんだよ」

「褒め言葉?」

「そうそう。いつも私たちがの事わんこみたいって言ってるから」

「ごめんなさい。いつもお姉ちゃん達にそう言われてたからつい・・・」


がすまなさそうに謝ると祐巳は急いで頭を左右に振った。


「ううん、謝らなくてもいいよ。ちゃんと一緒ってことでしょ?それだったら私も嬉しいから」

「本当?」

「うん!本当」

「よかった」


ほっとしたようには溜息をつく。

弟しかいない祐巳は妹とはこんなにも可愛いものなのかと本気でを妹にしたいと思っていた。

そう思っていたのは祐巳だけではなく、今まで大人しく見ていた由乃や令、志摩子もそう思っていた。


「江利ちゃんの妹は?」

「そこにいるショートヘアーの子よ」

「初めましてちゃん。支倉令って言うんだよろしくね」


令はそういうとにっこり笑った。

その少年のような笑顔には見惚れてしまう。今まで出会ってきた男性と比べても、令に敵う人物は誰一人いなかった。


「江利ちゃんすごいよ・・・。こんなかっこいい人、初めてあった」


は感嘆の声をあげる。

令といえば、褒められているものの正直に喜べないでいた。


「さすが江利ちゃんだね」

「ありがとう。そうだ、前にがこのクッキーおいしいって言ってたじゃない?あれ令が作ったのよ」

「そうなの!?」

「ええ」

「うわ〜。かっこいいのにお菓子も作れるんだすごいなぁ」

「今度何か作ってきてあげるよ」

「やった!!楽しみ〜」


はこれでもかというくらいに目を輝かせ喜んでいる。

目にはみえないがピンとたった耳や、ちぎれんばかりに振られている尻尾があるようで、聖たちがの事をわんこと称するのが頷ける瞬間だった。

普段、のように賞賛してくれる人物がいない令は感動をかみ締め、かっこいいと言われるのも悪くないとさえ思い始めていた。


「それで三つ編のおさげをしているのが令の妹の由乃ちゃんよ」

「島津由乃よ。よろしくちゃん」

「よろし・・・あ!革命を起こしたした人なんだよね江利ちゃん」

「そうよ」

「ちょっと黄薔薇様!なんで変な事教えるんですか!!」

「だって本当の事じゃない」


由乃は椅子から立ち上がり怒声をあげる。以前のような姿は今ではもう見る影も無い。

江利子は不敵な笑みを浮かべさらりとかわした。


「かっこいいー」

「え?」


思いもよらぬ言葉に由乃は面食らってしまう。

椅子に座りじっと由乃を見ているの瞳はまたもや輝いていた。


「かっこいい?」

「うん、かっこいい」

「そ、そう?」


先ほどまで怒りをあらわにしていた由乃だったが、に褒められた事によってそれはどこかへ行ってしまった。

まんざらでもない様子で由乃は嬉しそうに席に着くのだった。


「そんでもってこの子が私の妹の志摩子だよ」

「藤堂志摩子です。初めましてちゃん」

「可愛いお人形さんみたい。ねぇ聖ちゃん、髪がふわふわしてるよ」

「あはは、お人形さんみたいだってさ志摩子」

「えっと、ありがとう」

「髪触ってもいいですか?」


そう言ったかと思うとは志摩子へと寄っていく。

期待した目で見られては嫌だなどと断れるはずも無く、志摩子は頷いた。

はそっと志摩子の髪に触る。自分とは違うその髪に感激した様で、遠慮なく触っていた。


「うわー、ふわふわで気持ちいい。いいなー」

「そう?これはこれで大変なのだけれど」

「うーん。羨ましいんだけれどな。また触っていいですか?」

「ええ、いいわよ」


志摩子がふふと笑うとはにこっと笑って元の席へと戻っていった。

よかったねと聖が優しく髪を撫でてやると気持ちよさそうには目を細める。

幸せそうに笑うを見て、全員が温かい気持ちになっていた。




「ごめんなさい遅くなって」


ギシギシと階段が軋んでいる。そして、ビスケット型の扉が開いたかと思うとそこから蓉子が姿を現した。

急いできたのだろう、入ってきた蓉子の息は少し乱れていた。


「遅かったね」

「ええ、仕事を頼まれてしまって。今日は急ぎの仕事が無いから手伝ったのだけれど」

「お疲れ様ですお姉さま。少し心配をしました」

「ごめんなさい。誰かに言付けを頼めばよかったのだけれど」


蓉子はそう言って席に着くとふうっと息を吐いた。


「お姉ちゃん何か飲む?」

「そうね・・・オレンジペコでも淹れてもらおうかしら」

「りょうか〜い」


はそう返事をすると流し台へ向かう。先ほど祐巳に紅茶の淹れ方を教えてもらい、試したくてうずうずしていた。


「はい、おまたせ。上手く出来たかわかんないけど」

「ありがとう」


蓉子は早速紅茶に口をつける。

その傍らでは緊張しているように蓉子を見ていた。


「うん、上手にできてるわよ」

「ほんと!?」

「ええ」


蓉子は微笑むとの頭を撫でる。も嬉しそうに笑っていた。


「・・・・・・って。なんでがここにいるの!!!?」


蓉子は驚き椅子から勢い良く立ち上がる。そのおかげで蓉子が座っていた椅子が後ろに倒れ、テーブルまでもがたんと揺れた。


「おそっ!!蓉子気づくの遅いよ」

「だ、だって。普通いるなんて思わないじゃない」

「それにしても今の反応面白かったわね」

「ちょっと江利子!!」

「こんなお姉さま見た事がありません・・・」

「紅薔薇さまもこんな反応するんだ」

「テレビみたいね令ちゃん」

「う、うん」

「そんな事を言ったら紅薔薇さまが可哀相ですよ」


十人十色。

皆、それぞれ思い思いの事を言う。

いつもの凛とした蓉子はなく、顔を真っ赤に染めた蓉子が呆然と立っていた。



「それでは何しに来たの?」


落ち着きを取り戻した蓉子はを自分の隣に座らせると、なぜここに居るのかを聞いた。

は思い出したようにポンと手を叩くと自分のかばんを漁りだし、その中から茶色い紙袋を取り出した。


「もうすぐ江利ちゃんの誕生日でしょ?でもその日お休みだからお姉ちゃんにも頼めないし、プレゼントを持ってきたの」


そう言うとは江利子に紙袋を渡した。


「ありがとう。とっても嬉しいわ」


江利子がそう微笑むともにっこり笑った。

少ないお小遣いをためて買ってくれたのだろう。そう思うと江利子はなんともいえない気持ちになった。


「優しいんだねは」

「そう?大好きな人に何かをあげたいって聖ちゃんも思うでしょ?」

「うん、そうだね」

「ねえ、江利ちゃん開けてみてよ!」

「いいの?」

「もちろん!」


は勢い良く頷く。

江利子も頷き返すと大事そうに開け始めた。

一体何が出てくるのだろうかと江利子も蓉子たちも胸を高揚させる。そしてその中から出てきた物は・・・


『・・・・・・・・・・・・』

「・・・鼻付き眼鏡?」


そう、パーティーなどに使われているのかすら謎な鼻付き眼鏡だった。

全員唖然とそれを眺めている。

送った方はというとそれをにこにこと眺めていた。

気を取り戻した蓉子はこめかみを押さえる。そして我が妹であるの行動に頭を痛めていた。

他の面々も何と言って良いのやら気まずい空気が流れ始める。そして全員の視線は江利子へと注がれるのだった。


「有難う。これすごく欲しかったの」


その言葉に全員が驚きの声を心の中であげた。

江利子の表情からはそれが本気なのかどうなのかは窺い知れない。普通の事には飽きている江利子だそれは本心だったのかもしれない。事実は分からないがとにかく江利子は喜んでいた。


「ぷっ!あ、あははははは」


江利子の答えを聞いては笑い声を上げる。よほど可笑しいのかお腹に手を当て、目じりには涙を溜めていた。


「え、江利ちゃん面白すぎ!!普通は喜ばないよそれ」


はあはあと息をしながらは言う。その発言からその鼻付き眼鏡は故意的に送られたものだと分かった。


、本気でお姉ちゃん心配したんだけど」

「ごめんね。いや、江利ちゃん相手だから何か面白い事しないといけないかと思って」

「私もすごいビックリしたよ!」

「ごめんごめん。皆も驚かせちゃったみたいで」

「なかなかやるわね。さすが紅薔薇さまの妹だわ。私も見習いたい」

「お願いだからやめて由乃」

「こういう事ができるのはちゃんだけね」


蓉子たちはほっとした様に全身から力を抜くと、椅子に寄りかかる。

もしこれが本気だとしたらと皆どう取り繕うか考えていた。


「普通は喜ばないの?」


和んでいた空気が一瞬にして凍る。

言った本人は小首を傾げていた。


「江利子それ本気で言ってるの?」


聖は信じられないと言うような顔をして江利子に尋ねる。

江利子はそんな聖に顔を顰めながら当然でしょと言った。


「これ前から欲しかったのよ」


そう言って手の中に納まっている鼻付き眼鏡を大事そうに見ている。

どうやら先ほどの言葉は本心だった事がこの瞬間判明した。


「江利ちゃんそれ本当に欲しかったの?」

「ええ」

「それは予想外だった」


うーんと困ったようには唸るともう1度かばんを漁り、今度は小さな黄色い紙袋を取り出した。


「ほんとはこっちが本物なの。それは江利ちゃんがどう反応するのか見たかっただけなんだけど」


はそう言うと手に持っていたプレゼントを江利子に渡した。


「あら、これだけでも良かったのにもう1つくれるの?」

「あはは、そっちはおまけだし。本当にいるとは思わなかったもん」

「開けてみてもいい?」

「どうぞ。今度はちゃんとしたものだから」


黄色い紙袋から出てきたものそれは黄色い薔薇のピアスだった。

今度はちゃんとしていると言っただけあり、センスのいいものが選ばれていた。


「ピアス?」

「そう、マグネットピアス。耳に穴を開けなくても出来るから。リリアンの生徒だし私個人としても穴はあけて欲しくないから」

「へ〜。かわいいじゃん」

「それにピアスとしてじゃなくても使えそうだし。好きに使って」

「ええ、わかった。大事にするわ。有難う


そういって江利子はを抱き寄せる。

こんなに嬉しそうな江利子の顔を見た事が無い祥子たちは驚くが、に関わればいつでもそうなのだろうと心のどこかで思っていた。

も答えるようにぎゅっと江利子に抱きつく。

江利子とはお互いに顔を見合わせるとふふふと笑った。





「それじゃあ先に帰るわね」


がいることから、遅くならないようにと聖たちは蓉子に早く帰るように促したのだった。

蓉子もその言葉に甘えて今日は早く帰ることにした。

は嬉しそうに蓉子と手を繋いでいる。聖たちはそれを温かい目で、心では羨ましそうに眺めていた。


「おじゃましました」

「うん、またおいで

「ピアスありがとう。宝物にするわ」

「聖ちゃんまたね。江利ちゃんも気軽に使ってよ」


家宝にするといわんばかりの江利子には苦笑いを浮かべる。

本当に了解したのか定かではないが、江利子は分かったわと答えた。


「今度はお菓子を作っておくからね」

「楽しみにしてるよ令ちゃん」

「今度はいっぱいお話しよう」

「うん!絶対だよゆんちゃん。しーちゃんまた髪触らせてね!」

「ええ、分かったわ」


は1人ずつに笑顔を向ける。三人もそれに答えるように終始笑顔だった。


「今日は楽しかったわ」

も楽しかったよ祥子お姉ちゃん」

「また一緒にお茶を淹れようね」

「絶対だよ祐巳お姉ちゃん。家で練習するから」


祥子と祐巳は順番にの頭を撫でる。は嬉しそうに目を細めた。

ただ帰るだけだというのに、こんなにも盛大なお見送りをしてと蓉子は頭を痛める。

そして、だからの事は言いたくなかったのだと思っていた。ましてや会わせるなどとは。

こうなったのも、江利子と聖が家に乗り込んできた事が元凶なのだと蓉子は後悔をしていた。


「・・・じゃあまた明日。ごきげんよう」

「みんなまたね!!」


またが無いようにと願いつつ、蓉子は薔薇の館を後にした。

そんな蓉子の気持ちも知らずに、隣を歩くは元気良く聖たちにいつまでも手を振っていた。


「楽しかった?」

「うん!すっごく!!」


ご機嫌な様子ではスキップをしている。繋いだ手から蓉子にもその振動が伝わった。


「今度から来るときはお姉ちゃんに言うのよ?」

「分かった。今日はごめんね?」

「いいのよ、が楽しかったなら」


蓉子はを見て微笑む。


「それにしても今度から聖たちには注意しとかないと・・・」


そう蓉子は呟いた。

幸いには聞こえていなかったらしく、鼻歌を歌いながら歩いている。

隣を歩く妹を見ながら、先ほどまでの仲間達のデレデレっぷりを思い出し溜息をつくのだった。